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空高く響け、すべての山を越えて

  • サクライユウコ
  • 2018年8月1日
  • 読了時間: 6分

小学校の高学年になったとき、3クラスあった私たちの学年は、

ちょっと変わった担任ばかりだった。

1組の担任の先生は男性で、

中学校から小学校に配属されてきたばかりだったような。

ちょっと強面で、恐ろしいエピソードがまことしやかに噂されていたが、

本当のところはどうだったんだろう・・・

モンスターペアレントも、体罰も、今ほどの過剰反応ではなかった頃。

先生に叱られることだって、そりゃあったはずだ。

3組の私たちの担任も男性で、

怒らせるとこの人が一番怖かったように思う。

中はYシャツにネクタイ、下はスラックス、上だけ紫のジャージ。

メガネとほくろと髪型が特徴のおじさん先生で、

自己紹介のときに自分の名前を訓読みにして

「アイメイ先生」と読むように生徒に指導した。

悪がきだった私たちは訓読みのその名前を

あだ名のように呼び捨てしていたなぁ。

すっかり問題児集団だったんだと思う、私たちのクラス。

喧嘩も多かったし、年配の先生が経験で抑え込まなければ

なんともならなかったんだろう。

怒ると顔を真っ赤にして怒鳴る先生は、

もともと品の良い人で、穏やかな人だったはずだと

なんとなく思い返している。

当時はうざったいおじさんだなと思っていたと思うけど。

大変快活な2組の先生は女性であったが、

思春期の女子たちに対してあっけらかんと下ネタをかましたり、

急に大声で歌いだしたり、一風変わった感じの先生だった。

そんな黒田先生は、私の”好き”を作ってくれた人だ。

彼女は音楽が好きで、特に学芸会にはものすごく力を入れる先生だった。

出来ることならもう一度あのころに戻って、

あの達成感や高揚感を味わいたいと思うが、

私の5、6年のときの学芸会は今でも特別だ。

5年生で黒田先生が学年に入り、

音楽が好きな先生なんだなと別のクラスながらわかり始めて、

徐々に学芸会の準備期間に入った。

奇数年は音楽、偶数年は劇、というのが慣例なので、

歌や器楽がメインになるのだが、

これが本当に楽しい経験だった。

たとえば私が昨年度勤めていた小学校は統合が決まっていて、

全校生徒123人と小さな学校だったため、5年生は23人。

規模は小さいが、それでも聞こえてくる曲がだんだん完成に近づけば

いつもはやんちゃなあの子たちも、頑張ってるんだなぁと

仕事で見られない本番を想像しながら、

事務室でこちらがにこにこしてしまうくらい

学芸会って素敵なものだ。

私のときは学年で約100人の生徒がいたので、

メインはリコーダーや鍵盤ハーモニカ、

さらにアコーディオンだけで12人、ほかにはパーカッション、

木琴や鉄琴、ハンドベルも使ってある映画音楽をメドレーで演奏した。

忘れられない体験のひとつは「サウンド・オブ・ミュージック」メドレーだ。

私は3人いるソプラノアコーディオン担当のうちの1人だった。

たったひとつあったソロを2組の子にさらわれていったことは

今でも覚えているほど悔しかったが(笑)

メインメロが多いソプラノアコーディオンは、

演奏するだけで映画のシーンがよみがえってくるので

こんなに贅沢なことはない。

そんなわけで私は、

5年生の時に初めて「サウンド・オブ・ミュージック」を見た。

アルプスの山々の美しさ、明るい主人公、

心をほどいていく子どもたち、音楽がそばにある暮らし。

最後に音楽会を抜け出すシーンは、今でもハラハラする!

やはりこの中では、エーデルワイスやドレミの歌が有名で、

児童観覧日(父兄観覧日の前日にやるゲネプロのようなもの)には

それらの曲が盛り上がった覚えがあるが、

弾いていて楽しかったのはヨーデルが入る「ひとりぼっちの羊飼い」。

そして、メロディの美しさが際立って大好きな「My favorite things」と「climb every mountain」だ。

「My favorite things」は日本人のアーティストでも

たくさんの人がカバーしているのでよく聞かれるが、

(私は土岐麻子さんのジャズバージョンがお気に入り)

ふとしたときに耳によみがえってくるのが「climb every mountain」だった。

悲しい時とか、それこそ山の上でだとか、

「頑張らなきゃ、深呼吸をして」というときに

耳によみがえってくる。

今でも。

黒田先生が出会わせてくれた素敵な映画音楽。

この映画だけではない。

街の荒れたハイスクールに、一人の風変わりなシスター(?)がやってきて

歌でクラスをまとめ上げていく「天使にラブ・ソングを2」。

これがまた素晴らしい。

あれを見て、”歌いたい!”と思わない人はいない!

と、信じている。

そんなわけでミュージカルと教会音楽(サウンド・オブ・ミュージックも主人公はシスターだ)に

興味と憧れを抱いた。

結局のところ、「あんな風に手を広げて、空を仰いで歌ってみたい!」ということだ。

クラリスはもともとシスターではないが、マリアも最後にはシスターではなくなるので

彼女らのように「自由に歌う」というのは本来の意味とは異なるだろうが、

厳かで粛々と、祈りを込めて歌うものというイメージからゴスペルが身近になった。

さらにこれは「音楽がよりそばに感じる映画」との出会いだった。

大人になって一度だけ、教会のゴスペルサークルに参加したことがある。

時間の関係上通うことは出来なかったが、憧れの場所がそこにあった。

1日だけでも参加できて幸せだった。こちらも忘れられない体験。

6年生の学芸会で先生方が選んだのは、劇ではなく、ミュージカルだった。

劇団四季のミュージカル「夢から醒めた夢」は、

もちろん普通の劇とは違って、とにかくみんな突然歌いだす。

メインキャストたちはソロ曲があるし、

ほぼフルキャストで歌うにぎやかしい曲もある。

特にメインテーマの「愛をありがとう」は本当に素敵な名曲。

主役の二人や全編通して出ている「案内人」などは

それぞれ3人で役を分け、

1人しかいない役でもキャストを増やし、

徐々に「劇」は形になっていったが、挑戦しているのはミュージカルであり、

黒田先生がこだわったのは演技に含まれるダンスと、

BGMもすべて生演奏でつける、ということだ。

地獄のゲートでおばけたちが踊るダンスは、

MJのスリラーを参考に作られ、何度もあのPVをみて

お化け役の友人たちは練習していたし、

想像する小学生のそれよりも大きく、わかりやすい演技を心がけ、

それでいて不自然にならないように気を付けていた。

BGMは先生の手書きの楽譜もあった。

私は楽器隊のピアノ担当で、曲数は多かったがやりがいはあった。

演技に合わせて、セリフきっかけで演奏を始める。

演技と演奏が一体になってステージをつくるという経験は

この時以外にない。

唯一の経験をさせてくれた黒田先生に、心から感謝している。

結婚式をするとき、”好きなもの”について考えさせられた。

好きな映画は「サウンド・オブ・ミュージック」と

「天使にラブ・ソングを2」と書いた。

式の最中にかける音楽が決めきれないほどあった。

土岐麻子さんの「My favorite things」を会場でかけ、

母への手紙を読むときのBGMは、生ピアノ演奏の「愛をありがとう」に決めた。

他の曲にもいろいろな思い入れを込めて選曲したが、

小学生の頃に黒田先生に教えてもらったものを

人生の新たな門出にふと選び取ることができるということは

当時の出来事が私にとって確かなビッグ・インパクトだったのだ、ということだ。

卒業アルバムに黒田先生が書いてくれた

「レコード(CD)出したらちょうだいね」という言葉も

ついこないだ思い出した。

元気かな、黒田先生。

今もどこかで、先生はいろんな音楽を子どもたちに授けてくれているだろうか。

次回は、「中学生の不安定、引き金になるもの、電波と田園、生きるということ、饐えた札束のにおい」について。

では、また。

『空高く響け、すべての山を越えて』教会音楽とミュージカルに与えられたものについて


 
 
 

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